N氏はダンボールを屋根のついたバイクで運んでいたが、2月のこの異様な暖かさに気が狂い、数日前から片方の耳を常に塞がずにはいられなくなってしまった。塞ぐものはなんでもいいらしい。手でも、イヤーマフでも、ハムスターでもいいらしい。ただ、ヘッドホンはいいがイヤホンはだめで、耳全体を塞がないといけないらしい。多分これはN氏の単なるこだわりだ。どうしても手が使えない、ハムスターが逃げてしまった、などの時は人の体に耳を押し付けることで難を逃れていた。N氏は塞いでいる片方の耳は宇宙に直結していて、絶えず電波塔から出ている電波に乗りミニスィク星人から「今日はカモミールティーを濃く入れてみた」や「電車で席からはみ出てる奴まじうざい」などの日常の些細な報告を受信してしまう、と思い込んでおり、それを避ける為に片方の耳を塞いでいるらしい。うっかり先日、片方の耳を塞ぎ損ねた時に受信した言葉はとても卑猥なものだったらしく、N氏はひどく憤りを覚えていた。また、N氏は赤いきつねが好物で、一日に一度は食べる。そして今日もまた、屋根のついたバイクに座って片方の耳を塞ぎながら食べる。その時N氏の携帯電話が鳴った。N氏は電話で話すことは好きだ。必然的に片方の耳が塞がれるからだ。N氏は電話を取る。もう片方の手には赤いきつねを持ち、スープをすすり、そして電話に出る。
とゆうところの写真
光の早さで2月が終わってしまった

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